仙台高等裁判所 昭和49年(ネ)162号 判決 1976年3月08日
控訴人
安中宥享
同
福島県中央不動産株式会社
右代表者
吉田忠次
右両名訴訟代理人
瀧田三良
外三名
被控訴人
根本祐一
右訴訟代理人
石沢茂夫
主文
原判決中控訴人安中宥享に関する部分を取り消す。
被控訴人は、控訴人安中宥享に対し金一二〇万円とこれに対する昭和四六年六月二日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。
原判決中控訴人福島県中央不動産株式会社に関する部分を次のとおり変更する。
被控訴人は、控訴人福島県中央不動産株式会社に対し金八〇万円とこれに対する昭和四六年六月六日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。
控訴人福島県中央不動産株式会社のその余の請求を棄却する。
訴訟費用中、控訴人安中宥享と被控訴人間に生じた分は第一、二審を通じて被控訴人の負担とし、控訴人福島県中央不動産株式会社と被控訴人間に生じた分はこれを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人会社の負担とする。
この判決は、主文第二項および第四項に限り、仮に執行することができる。
事実
控訴人らは「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人は、控訴人安中宥享に対し金一二〇万円とこれに対する昭和四六年六月二日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員、控訴人福島県中央不動産株式会社に対し金二一〇万三一二二円とこれに対する昭和四六年六月六日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を各支払え。(三)訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決および(二)につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者の事実上の主張および証拠関係は、左記に補足するほか原判決の事実摘示欄の記載と同一であるからこれを引用する。
(控訴人らの主張)
一、原判決添付第一目録の土地(以下第一の土地という。)を、被控訴人から訴外清水建設株式会社(以下清水建設という。)が買い受けるについて、控訴人福島県中央不動産株式会社(以下控訴人会社という)は、清水建設の代理人であつたものではなく、被控訴人と清水建設の売買の仲介をしたものである。すなわち、控訴人会社は、清水建設から郡山市内の土地の買受けを依頼されていた藤田貞蔵から、適当な土地のあつせんを依頼されたので、第一の土地を買入れるべく、藤田とともに控訴人会社の代表者吉田忠次が被控訴人方を訪れて、もし被控訴人において第一の土地の売却の意思があれば、控訴人会社において仲介を引き受ける旨を申し入れた。ところが、第一の土地については、賃借人がおり、しかも賃借人所有の建物については借家人もいて、占有関係が複雑であつたため、被控訴人は、更地にして売却することは困難であり、賃借人がいる現況のままでなら売却したいという意向であつた。一方清水建設側では、第一の土地を更地にするための費用すなわち賃借人等の立退料は負担するが、賃借人らの立退の同意は仲介人において得て貰いたい意向であつたので、控訴人会社はその旨を被控訴人に伝えて承諾を得た。結局、控訴人会社は、第一の土地の賃借人や借家人の明渡の同意を得たうえで清水建設と被控訴人間の第一の土地の売買契約を成立させることを清水建設と被控訴人の双方から依頼を受けたということになる。そのため被控訴人との間においても、仲介報酬は代金総額一億五〇〇万円のうち金五〇〇万円とする旨高額の報酬が約定された。そして、控訴人会社は、右の依頼にもとづいて、本件土地の賃借人らとの明渡の折衝を重ねた結果、賃借人らの明渡の見込がついたので、昭和四三年六月二六日被控訴人と清水建設において第一の土地の売買契約が締結されるにいたつたのである。
二、(一) 以上のように、第一の土地の売買にあたつては、右土地上の賃借人や借家人の明渡の同意を得ることが売買契約成立のための重要な要素となつていたものであり、その同意を得るために控訴人会社が尽力した結果、右土地の売買契約が成立したことからみても、被控訴人からの仲介依頼があつたことは明らかであり、したがつて被控訴人に対する仲介報酬請求権も認められるべきである。
(二) かりに、被控訴人から控訴人会社に対し明示の仲介依頼がなされたとは認められないとしても、控訴人会社が清水建設または藤田貞蔵の依頼を受けて賃借人付きの第一の土地の売買契約について特段の努力をなした結果売買契約が成立するにいたつた経緯からみて、被控訴人からも報酬額の定めのない黙示の仲介依頼がなされたものとみるべきである。
(三) また、被控訴人から依頼がなかつたとしても、控訴人会社は宅地建物取引業者として不動産取引の仲介を業とするものであり、第一の土地の売買に関して仲介をしているものであるから商法五五〇条二項の規定により清水建設に対してと同様被控訴人に対して報酬を請求する権利を有するものであり、仮りに商法第五五〇条二項の適用がないとしても、同法第五一二条の規定により相当の報酬を請求し得る筈である。
(被控訴人の主張)
一、被控訴人は、控訴人会社に対し第一の土地の売買の仲介を依頼したことはない。被控訴人は、清水建設から委任を受けた東北不動産株式会社の藤田貞蔵の紹介により、控訴人会社を藤田の代理人ないし履行補助者と考えていたのである。
二、もともと被控訴人は第一の土地を売却する必要は感じていなかつた。
しかし、清水建設は、藤田貞蔵に依頼して郡山市内に常陽銀行郡山支店の建設用地を探していたが、適当な売主がなかつたところ、第一の土地に隣接する土地の所有者である株式会社丸光が売却の意思を示したものの面積が不足したため、第一の土地をもあわせて買い受ける必要があり、相当の金銭的出資を覚悟で買入れ方を申し込んできたため、被控訴人においてもこれに応ずることにしたのである。そのために、右土地上の賃借人に対する明渡の交渉等は一切清水建設側において行うこととし、被控訴人と清水建設の間においては賃借権付きの土地換言すれば底地についての売買契約が成立したものである。したがつて控訴人会社が第一の土地の賃借人等に対し明渡の交渉をしたとしても、それはもつぱら清水建設のためにする意思をもつてなされたものであり、仲介を依頼していない被控訴人に対して報酬を請求することはできない筈である。
三、かりに右の主張が認められず、被控訴人と控訴人会社間に第一の土地を金一億五〇〇万円で売却すればそのうち金五〇〇万円を報酬にあてるとする合意があつたものと認められるとしても、昭和四三年六月二六日に成立した右土地の売買契約の代金総額は金八六八七万四四八八円で金一億円に満たなかつたのであるから、被控訴人は仲介手数料を支払う義務がない。
(証拠)<略>
理由
一控訴人会社が宅地建物の取引の仲介を業とする会社であること、被控訴人が、昭和四三年六月二六日、その所有にかかる原判決添付第一目録記載の土地すなわち第一の土地を清水建設に対して金八七九七万三〇七五円(3.3平方米当り三五万二四三二円)で売渡したこと、被控訴人が同年一二月一〇日原判決第二目録記載の土地(以下第二の土地という)を同目録記載の各所有者から同目録記載の各代金をもつて買い受けたことは当事者間に争いがない。
二そこでまず控訴人会社の第一の土地の取引の仲介にもとづく報酬請求権の有無について検討する。
(イ) <証拠>によると次のような事実が認められる。すなわち、昭和四二年六月頃清水建設は株式会社常陽銀行郡山支店を建築するための敷地を購入すべく、その斡旋を東北不動産株式会社の藤田貞蔵に依頼した。同人は地元の不動産業者である控訴人会社に斡旋を依頼し、控訴人会社は専務取締役の橋本政寅にその任務を与えて買入地を物色した。橋本は一旦別なところに候補地をみつけたが失敗し、昭和四三年三月頃被控訴人方を訪れ第一の土地の売却方を交渉した。その後結局同年六月二六日被控訴人と清水建設の間で右土地の売買契約が成立するにいたつた(この事実は当事者間に争いがない)が、この間控訴人会社は主として橋本が第一の土地を被控訴人から賃借していた矢吹智、野替ひで、渡辺安衛商店、松井キヨシ、本田徳右衛門、福内合名会社、小林宗三郎らや右賃借人の所有建物を借り受けていた借家人と、個別的に立退方を交渉し、代替地を斡旋したり、立退料の額を協定したりして大半の賃借人や借家人に立退を合意させたのであり、ほぼ更地となる見込がついたことによつて前示のように売買契約がなされるにいたつた。
以上のような事実を認められるのであり、この認定を左右するに足る証拠はない。
(ロ) 右のように控訴人会社は、第一の土地の売買契約の成立について買主と売主とを媒介し、右土地を買主の買入れの目的に適合するように更地にする交渉を成功させるなど重要な役割を果たしたのにもかかわらず被控訴人は仲介の依頼を否定し、右の主張にそう原審および当審における被控訴人本人尋問の結果は、仲介の依頼があつた旨供述する前掲橋本政寅の証言と多くの点で全く相反し、供述のみからではいずれが真実とも容易に断じ難いところがある。
しかし、前掲甲第二号証(土地売買契約書)には、売買契約の当事者として被控訴人と清水建設の記載があるほか、立合人として藤田貞蔵が取締役社長である東北不動産株式会社とならんで控訴人会社の氏名が記入されていることが認められるところ、前掲証人藤田貞蔵、同根岸良正は、いずれも控訴人会社は地元の不動産業者で被控訴人側の仲介人の趣旨で氏名を記入したと述べていることが明らかである。また清水建設の事務担当者であつた証人根岸良正は、第一の土地の売買契約に関する被控訴人の意向はすべて控訴人会社を通じて伝えられたと述べ、控訴人会社を被控訴人側の仲介人として遇していたことを明らかにしている。
さらに、右甲第二号証によると、本件土地の売買代金は右契約当時昭和四三年八月三一日金三〇〇〇万円、同年一一月三〇日所有権移転登記申請と引き替えに金三一八七万四四八八円が支払われるものと約定されている(金二五〇〇万円は契約締結時に手附として交付され、後日売買代金に充当することとされた)が、最終の支払期日については、右の記載にかかわらず、居住者が明渡を完了次第残金を支払うものという条項が特別に記入されており、当時前示のように第一の土地上の賃借人や借家人の立退の交渉をしていた控訴人会社の努力次第で被控訴人においても約定した期日以前に代金の支払を受けられるということになつていたことが認められる。そして前掲根岸良正の証言によると、実際にも明渡交渉が進捗したことにより、控訴人会社を通じた被控訴人の依頼に応じて昭和四三年八月三一日の支払分を約一ケ月早めに支払つている事実が認められる。以上認定のような第一の土地の売買契約が締結された経緯や控訴人会社が宅地建物取引業者で、しかも土地の売買にとつて重要な賃借人等占有者の明渡交渉を引き受け、その労によつて被控訴人においても早期に代金支払を受けられるという関係にあつたことを考えると、被控訴人から仲介の依頼があつた旨をいう前掲証人橋本政寅の証言の方が、これを否定する原審および当審における被控訴人本人尋問の結果に比して客観的な事実に即していると認めるのが相当である。
したがつて第一の土地については少なくとも売買契約が成立した昭和四三年六月二六日までに被控訴人から控訴人会社に対し売買仲介の依頼があり、その結果控訴人会社は仲介にもとづく報酬請求権を取得したものと認めるべきである。この判断に抵触する前掲被控訴人本人尋問の結果は採用しない。
(ハ) ところで、昭和四三年六月当時の福島県下の宅地建物取引業者の報酬額は、昭和四〇年四月建設省告示第一一七四号により、昭和三一年福島県規則八〇号福島県宅地建物取引業法施行細則の適用を受けるものとされ、取引額三〇〇万円を超えるものについては取引額の一〇〇分の三の範囲内で報酬を定めるべきものとされていたことは当裁判所に明らかである。そして第一の土地の売買代金額、契約の成立に寄与した貢献度など一切の事情を斟酌すると、控訴人会社において被控訴人に請求し得べき報酬額は金二〇〇万円をもつて相当と解する。控訴人会社と被控訴人間に、不動産取引については前記福島県宅地建物取引業法施行細則に定める最高額を支払う旨の明示または黙示の合意があつた旨の控訴人会社の主張ならびに当時福島県下においては右の細則に定める最高額を支払う旨の事実たる慣習があつた旨の控訴人会社の主張を認めるに足る証拠はない。また控訴人会社は、第一の土地の売買契約については、被控訴人の手取り金額を金一億円と定め、それを超える部分は控訴人会社の報酬にあてる旨の特約があり、本件土地は結局金一億八九七万三〇七五円で売却されたので、控訴人会社において八九七万三〇七五円の報酬請求権を得たとも主張するが、前示のように当事者間に争いのない売買代金総額は八七九七万三〇七五円であり、右代金額以上の金額で売買がなされたことを認めさせる適確な証拠はないから、控訴人会社の右の主張は採用できない。なお売買代金が金一億円を下廻つた場合には報酬請求権が発生しない旨の特約が存したことをいう被控訴人の主張もこれを認め得る証拠はない。
(ニ) 以上の次第で、被控訴人は控訴人会社に対し金二〇〇万円と遅滞におちいつた日から右金員に対する商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるところ、成立に争いのない乙第五号証と当審における控訴人会社代表者吉田忠次本人尋問の結果によると、控訴人会社は、右金二〇〇万円の債権のうち金一二〇万円を昭和四五年九月一〇日頃控訴人安中に譲渡し、その頃被控訴人方に債権譲渡の通知をした(債権譲渡の通知があつたことは当事者間に争いがない)ことが認められるとともに、記録によると控訴人会社の訴状が被控訴人方に送達された日の翌日が昭和四六年六月六日であり、控訴人安中の訴状訂正申立書が被控訴人方に送達された日の翌日が同月二日であることが明らかであるから、被控訴人は、控訴人会社に対し金八〇万円とこれに対する同月六日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員、控訴人安中に対し金一二〇万円とこれに対する同月二日から支払い済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払うべき義務を負担していることになる。
三被控訴人が第二の土地を買い受ける仲介を控訴人会社に依頼し、控訴人会社の仲介で売買契約が成立したことならびにその報酬として被控訴人から金二〇〇万円が支払われていることは当事者間に争いがないところ、右金額を超える報酬額の請求については当裁判所も理由がないと考えるが、その理由は原判決理由三、中の原判決九枚目裏二行目から一〇枚目表一行目までの説示のとおりであるからこれをここに引用する。
四以上を要するに、被控訴人は、控訴人安中に対し金一二〇万円とこれに対する昭和四六年六月二日から支払い済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払うべき義務があるものであるから、本件控訴は理由があり、原判決中控訴人安中の請求を棄却した部分を取り消して同控訴人の請求を認容することとする。また被控訴人は控訴人会社に対し金八〇万円とこれに対する同月六日から支払い済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払うべき義務があるものであるから、控訴人会社の請求は右の限度で理由があり、控訴も理由があるが、その余の請求は失当であり、控訴は理由がないので原判決中控訴人会社に関する部分を主文第四、第五項のように変更することにする。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、仮執行宣言について同法第一六九条を適用して主文のとおり判決する。
(石井義彦 佐々木泉 守屋克彦)